(1)新築費用
坪単価55万円(消費税別)でした。
この価格には、通常は工事に含まない照明器具、暖房器具、カーテンに替えて取りつけた窓際の障子13棹も含んでいます。キッチンは電磁調理器、給湯はエコキュート、バスユニットや洗面台、トイレも中の上クラスを使用しています。
全面ベタ基礎を含め、構造はこれでもかというほど頑丈。大工も職方も一流の腕前。自然素材、無垢材、東濃ヒノキ、和瓦、左官壁などを使っています。自然素材を使うと高くつく、庶民には高嶺の花というのは根も葉もないことです。尤も、ロフトは壁と床だけなので安くできていますからこの分は考慮しなくてはなりません。
仮に大手メーカーのプレハブにオプションをつけてこういう家を造ると(出来ませんけどね)多分坪単価80万円から90万円になると思います。
一方、上記のような仕様を並べて坪単価29万円というようなチラシ広告も多くて、建て主が迷うのも無理のないことです。
で、結局高かったのか、安かったのか。
里山の小さな家はとても値打ちにできたと思います。着工から完成までの誠実なプロセスを見ているからです。よい腕と分厚い経験を持った匠や職方が、手間を惜しまず、楽しそうに1軒の家を造っていく様子をつぶさに見ていると熱いものがこみあげ、ほんとうに感謝の気持ちが湧いてきました。少し長いこのリポート書く動機になったのもこの気持ちです。
坪単価29万円!は、どこかに必ずまやかしがあると思ったほうが賢明でしょう。迂闊に安物を掴んで取り返しのつかない後悔を舐めるのは自分に原因があると思わなくてはなりません。
また、住宅価格には地方差もあります。一般に都市部で高く田舎で安いのは、搬入条件や人件費等が影響しており、そのときの需要動向も影響します。
いずれにしても工務店は利益をあげなければ存続できないので、法外に安い話に何か隠されたものがあるのは疑いのないところ。家造りに偶然の幸運はありません。
(2)優良工務店を探す
里山の小さな家は、愛和という地域に根ざした優良な工務店によって造ることができました。でもこれは偶然ではありません。
設計は専門家に依頼してもよいし、すこし学習すれば自分でもできますが、優良工務店を探し当てることは家造りでもっとも重要で難しいことです。通常、家を建てるのは一生に一度ですから経験の積み重ねから優良工務店の選択眼を磨くことは不可能です。
悪徳業者は論外としても、設計意図が分からない、新知識が無い、勝手に進める、説明しない、といった工務店に依頼してしまったら取り返しがつきません。おみくじとは訳がちがう。不運では済まないことになります。
このリポートで述べた優良工務店探しの手順を整理すると次のようになります。これはひとつの解。
@設計の段階で要件を漏らさず整備する
A出版物などで情報を広くあたり複数の工務店に相見積りを依頼する
B設計に対する工務店の反応(技術や取組み姿勢)を確認する
C価格比較をする
D未完成現場をよく見て構造の細部を調べる
E設計意図に対する理解度を評価する
このプロセスは、工務店選択に際して偶然の幸運と不運が入り込む余地を最大限排除しています。各ステップで冷静な評価をしていけば不運に泣く確率を最少化できます。このためには建て主にある程度の技術的な知識が必要です。これがなければおみくじの世界。
前提はきちんとした設計から始まります。設計図や仕様書がない状態で工務店に依頼することは避けなければなりません。これでは何を注文したのか分からない。
工務店は、相見積りを基本的に歓迎しないでしょう。でも設計図と仕様書ができた段階で相見積りは取ったほうが賢明です。
叩き合いをやらせて少しでも安くという意図ではありません。わたしの場合、前述のように愛和に決めた理由は省エネとエコロジーに対する取組み姿勢と技術的理解度でした。
設計図書を見てスタコラという工務店もありましたので、このプロセスが効果的に働いたといえます。
さて相見積りには次のようなメリットがあります。
@詳細見積りから価格を項目別に一覧表にして比較すると適正価格が見える。
A異常値(最高価格と最低価格)が見える。
B交渉を通じて工務店の個性や得意不得意、経営スタイルや相性が見える。
D設計に対する工務店の意見や変更提案から、工務店の意図が見える。
自分で探し、自分で評価して、自分で決める。知人親類の推薦、根拠の無い評判、チラシ広告、セールストークとかで決めて大凶を引いてもあとの祭り。
なお、建売を買うのは論外と思います。前述の@からEまでのプロセスがひとつも無いので、肝心なことを何ひとつ確認できないからです。不運に泣く確率の最大化を自分で掴みにいくのと同じです。しかも建売の致命点は肝心の構造が目視確認できないことです。
(3)家相
これは厄介な問題です。
結論からいえば、良い住宅を造るために家相は邪魔になるだけ。家相を気にするなら、占い師に相談して間取りを決めればよいということになります。
設計段階で理想を山ほど盛り込んだ上
「でも家相が悪いわ、どうしようかしら」
こうなると基準が変ってしまいます。設計無用。
「南天でも植えれば? 難を転じますよ」
「えっ!ホント! じゃ南天植えます」
ご自由に!
・・・・と、威勢のよい前口上を吐きましたが、ばっさり割り切ることはなかなかできるものではありません。
「 不幸が続く家には家相に必ずなにか悪いところがあります」
「そういえば、あの家は鬼門にトイレが有りますねえ」
「原因不明の高熱が続くので占い師に見てもらったら2階のトイレ下に仏壇があると指摘された。凄い透視力、あの霊感師は本物」
よくあるこの類の話をわざわざ持ってくる人もいて、聞いてしまうと設計合理性だけで割り切ることができずあれこれ迷いはじめるのが常人の弱さ。家相の本と設計図のにらめっこが延々と続きますが、元々次元がちがうので合理的な解決はあり得ません。
わたしは家相には無頓着ですが、里山の小さな家では仏壇の配置についてお寺の意見を訊きました。
仏壇は解体した母屋の和室に東向きに配置されていました。これを新築部分と一体化した既存の座敷に移し、西向きに配置する計画を立てたのです。
仏壇は通常東向きが多く、西向きは少ない。たぶん先祖を敬う気持ちが、日が昇る方角を選んだのでしょう。でも西方浄土とも言いますよね。
結局、佛壇屋とお寺に来てもらって状況を見てもらい、意見を聞いて決めました。完成してからお寺から小言やお叱りを受けると痕を引きます。
意見を訊くということは、もし反対意見があれば計画は練り直すということです。ことほど左様にわたしも優柔不断。
結果は仏壇屋もお寺もGoodの回答。
「ええことやと思います。西向きどころか北向きの仏壇もいくらでもあります。東向きの家はほとんど北向きになる。いちばん良い部屋に祭るのが祖先を敬う気持ち。相談してくれる檀家はほとんどいないのに、あんたはえらい」ということでした。
以上は家相の話で宗教の話ではありません。わたしの家は代々西本願寺派ですが、阿弥陀経についても宗教一般についても、まともに考えたことは一度もない落第生。
家相については、誰が見ても変だということさえ避ければ充分と思います。
ここまで書いてきて気が付いたのですが、最近の建売住宅やマンションの広告を見ると、仏間がない間取りがほとんどですね。家は人が住み、ヒトが死ぬことは自明なのに。
宗教は自由だし、仏壇は仏教の産物?でこれを先に決めることのほうがおかしいかも分かりませんが、でも何か変な感じを受けます。
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